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私たちはとても混み入った, あまり大きくない部屋, 署名の間 (Stanza della Segnatura) と呼ばれる部屋にいます。 ここは多くの人たちで 混みあっているだけではなく, 絵も混みあっています。 私たちはラファエロの フレスコ画を見ています。 これは盛期ルネサンスの間に 描かれました。 同時期にミケランジェロが描いた システィーナ礼拝堂の天井は 2〜3 のドアの向こうです。 もともとはここは ローマ教皇が住んでいた 部屋の一部で,図書室でした。 16 世紀の始めにこの部屋が どのような感じだったかは, ここにいる見学の人たちの代わりに, 本棚が壁にずっと並んでいたと 想像してみるとわかるかもしれません。 今はざわついて難しいですが,静かな 図書館を想像してみたいと思います。 見上げると,この 4 つの壁には ラファエロの絵があります。 それは,人間の知識の 4 分野を表します。 まずは哲学,この世界のものごとが どうなっているかを考える学問です。 この時代の哲学は私たちが 科学と呼ぶものでもありました。 反対側の壁には,神学, 神とその神聖さに関係することを 考える学問です。 そして残りの 2 つの壁には, 詩と正義があります。 これらは天井に神話として 描かれている 人間の知識を象徴する 4 つの分野です。 ほんの少し向こうにミケランジェロ がいるのもはっきりしています。 ラファエロがシスティーナ礼拝堂の 天井に描かれたミケランジェロの絵, 特に預言者と巫女を見ていたことが, はっきりとわかります。 盛期ルネサンスの最高潮, なんてすごい時なんでしょうね。 ローマ教皇ユリウス II 世がこれらの プロジェクトを全部まとめました。 ここで,神学が人間の 知識の一つとして等しく 表わされていることの意味に ついてちょっと考えてみませんか。 この時代は教会の歴史の中で。 並外れてリベラルな時です。 ヒューマニストの古典的な学びが 教会の教えともいっしょに並ぶ ことのできた時代です。 このアテナイの学堂の中央には, 哲学を表現したフレスコがあり, 中央には古代の 2 人の偉大な哲学者, プラトンとアリストテレスがいます。 彼らは古代の他の偉大な思想家, 哲学者,数学者たちに囲まれています。 実質的に全ての知られている 偉大な人たちがいますね。 でも,まずは真ん中にいる 2 人から始めましょう。 どちらがアリストテレスか プラトンかはわかります。 なぜならプラトンの方が 年上だからです。 プラトンは,実は アリストテレスの先生でした。 それはプラトンが書いた自分の本の一冊, テュマイオス (Timaeus) を 持っていることからもわかります。 そしてアリストテレスも自分の本, 倫理学 (Ethics) を持っています。 これら 2 冊の本の両方が 2 人の哲学の対比も 表しています。 プラトンはエーテルという仮想の 目に見えないものに興味を 持っていたことが知られています。 確かに彼は上を指差していますね。 この世界がどのように見えるかは, 最終的な真実ではない, という考えです。 純粋なイデアという私たちが 見る日常の世界よりも, もっと真理に近い,数学にもとづいた 世界があるという考えです。 それに対して,彼の生徒の アリストテレスは,見ることができ, 物理的に触れることが できるものに注目していました。 彼の手のひらが下を向いている ことに気がつくでしょう。 そしてまるで,「いやいや,そうじゃなくて, まずは目の前に見えるものから 考えましょう。」と言っているようです。 そうです。私たちの 世界で見えるもの, 何かで測ることが できるものに,です。 実は,それぞれが着ている ものの色を見てみると, それも彼らの違いを示しています。 プラトンは,赤と紫を着ています。 紫はエーテル,なんというか空気と 呼ぶようなものを示している色です。 赤は火です。どちらにも重さがない ものと思われていました。 アリストテレスは 青と茶色を着ています。 これらは水と大地を表す色で, 重さがあるものです。 そして,プラトンとアリストテレスの それぞれの横にいる 哲学者たちも同じように 分けられています。 プラトンの側には,イデアについての 問題に興味をもっていた 哲学者たちが見えます。 たとえば,左下には古代の偉大な 数学者,ピタゴラスがいます。 彼は音楽の調和の法則を発見し, 数学の言葉で書いた哲学者です。 そして,彼は私たちの 見ることができる 現実の世界を超えた世界が あると考えていました。 それに比べ,右下には, ユークリッドがいます。 彼は幾何学の図を 描いているのでしょうか? どうも,彼は幾何学の図を 何人かの熱心な生徒たちの ために描いているようです。 彼はものを測ることに 興味がありました。 それは実用の考えですね。 このユークリッドは,ラファエロの 友達がモデルになっているんですよ。 それはブラマンテです。 彼は教皇ユリウス II 世に頼まれて 新しい聖ペテロ大聖堂の設計を 任された偉大な建築家です。 実際に,彼がここにユークリッドとして よみがえったのはぴったりきますね。 ブラマンテは聖ペテロ大聖堂を 円と正方形の完璧な 幾何学を基に設計しました。 それはラファエロがアテナイの学堂 のために創った建物に見てとれます。 ここにはとてもブラマンテ的な 建築が見えます。 しかしまたそれはとても 古代ローマ的でもあります。 半円筒天井と付け柱があります。 このような空間の中にいると,まるで 何か高貴になったような感じになります。 そして壁龕 (へきがん) の中には 古典的な彫刻が見えます。 左側,プラトンの側には, アポロが見えます。 アポロは太陽,音楽, 詩の神ですね。 それらはプラトンにあって いるように思います。 右を見ると,アテナが見えます。 アテナは戦争と知恵の神で, おそらくより人間のすることに近い 実際的なものという感じなのでしょう。 私の個人の考えなのですが, これらは皆, 中世の考えとは 真逆のものだと思います。 中世には知識とは 権威が与えるもので, 普通の人たちはそれを盲目的に 受けいれなくてはいけないものでした。 しかしここ,教皇の部屋の壁には, この絵があります。 この絵では知識が皆に共有され, また知識が蓄積されてい く歴史があるようです。 皆が美しく動いて学んでいて, 彼らの内面にある知恵と知識が そのまま外に出てきているような 優雅さがあると思います。 お気づきでしょうが,ラファエロは この絵には誰が誰かとは名前を 書いていないんです。 誰かがわかるものは,多分 プラトンとアリストテレスの 二人が持っている 本のタイトルくらいです。 ですから,ここにいる人たちが誰かは, 彼らの動きや,彼らの着ているものから 想像しないといけません。 さて,芸術家 (ラファエロ) は人々を 左右のグループに分けました。 そのために中央の前景が ほとんど空になっています。 私は彼がそうした理由を いくつか思いつきます。 たぶん,彼は線形遠近法で絵の上下で強く 直角のバランスも取りたかったのでしょう。 また,プラトンとアリストテレスが 階段を歩いて降りるという 前に続く道への前方向への動きを 作りたかったのではないかと思います。 前景の中央には 2 人の人がいます。 ディオゲネスがいますね。そして とても興味深いことなのですが, 古代の哲学者,ヘラクレイトスがいます。 彼は自分一人で静かに考え, 何かを書いているようです。 この絵ではほかのほとんどの人たちは 他の人たちと話をしたりしてますが, しかしこの人だけは違います。 彼は,何かを考えていて,まるで 迷ってしまった? のでしょうか。 そして彼は大理石のブロックの 上で何かを書いていますね。 実は,彼のモデルは偉大な 芸術家ミケランジェロなのです。 彼は寂しがりで憂鬱な 人がらで知られていました。 ラファエロは彼をシスティーナの天井の 預言者イザヤと同じポーズで描いています。 しかしイザヤは上を見ていますけれども, このミケランジェロのヘラクレイトスは 下を見ていますね。 ラファエロは偉大な芸術家, ミケランジェロへの敬意を ヘラクレイトスに重ねて表して いるのです。面白いですね。 そしてこのヘラクレイトスは「万物は 流転する」と信じていた哲学者です。 ヘラクレイトスの姿は実は後になって つけくわえられたものです。 ラファエロはこのフレスコ画を 完成した後で,ぬれた石膏を塗って, この姿をつけ加えました。 実はラファエロは自分自身も 絵の中に描いているのですよ。 彼は黒い帽子の若い姿で, 私たちを直接見ています。 彼は時代を越えた重要な天文学者 たちの間に立っています。 そこには惑星の動きの理論を つくったプトレマイオス, そして天球を手に持った ゾロアスターがいます。 今私たちは一職人としてこの絵を 描いた中世の芸術家の 時代から,はるか遠くに立っています。 ここではこの芸術家 (ラファエロ) は 歴史上の偉大な思想家と同じような 知識人たちと同じ場所に 並んで立っています。 この絵の中には何人も人が いますが,不自然さとか, 繰り返しの感じとかがまったくない のもすごいですね。 ラファエロはレオナルドの 「最後の晩餐」にあるように 人々をグループに分けて 描くことを好みました。 それぞれの人物は重なりあったり, 他の人たちの間を動いて いるようにも感じます。 実はユークリッドのすぐ後ろに, 私の大好きな 2 人がいます。 一人は立って壁によりかかり,足を組み, もう一人は何かを急いで 書いていますね。 立っている人の方はそれを 壁によりかかって見ています。 私はすてきな友情をここで感じます。 私が思うに,これはあなたが カレッジや大学の廊下を歩いていくと 普通に見るようなシーンだと思います。 全ての人たちが自由に 動いているのに対して, 建築そのものは遠近法を 厳格に使っています。 歩道やコーニス (天井部分) は 遠くに引いていくのですが, それに対する直角の感じが あるのがわかるでしょうか。 この,絵の中に空間がまるである ような幻想は信じられないですね。 ギリシャ風の曲りくねった飾りは,まるで 私の後ろの方に動いてくるようです。 しかし面白いのは,この建築には 古代ギリシャの伝統的なものは 何もないことです。 これはローマの伝統的な様式で, ギリシャでは半円筒天井をこのように 使うことはありませんでした。 ブラマンテ,ラファエロ, ミケランジェロは近くの カラカラ浴場や,マヌティウスと コンスタンティヌスの バシリカを見ることができました。 ローマの廃墟となった建築物は 街のいたるところにあって, ラファエロがここに描いたものは それに似ていると思います。 ここでほめたたえているものは, 偉大な異教徒の思想家のパンテオン, というちょっと普通にはないものです。 この中にキリスト教徒は 一人もいないのですよ。 アテナイの学堂の反対側の 聖体の論議 (The Dispute) として 知られるフレスコ画も ちょっと見てみましょうか。 こちらのフレスコ画は神学,神に ついての研究,の絵です。 ここにいる人々の姿は天国側と 地上側に分けられています。 頂点の近くには父なる神が 天国のドームの中にいます。 その下にはすばらしい完全な光輪, または後光の中にキリストがいます。 そして彼の右には聖母マリア, 左には洗礼者ヨハネがいます。 その下には,もう一つの金の 円盤の上に鳩がいます。 これは聖霊を表しています。この 3 つが あわさって三位一体となっています。 鳩の両側には4 冊の福音書, マタイ,マルコ,ルカ,ヨハネがあり, キリストの一生についての 物語を語っています。 すてきな雲のベンチには預言者と 聖人たちが座っています。 そしてその中には誰かが わかる人もいます。 たとえば,モーゼが 十戒を持っています。 そしてその下のもう一つの円は 礼拝の聖餐式でキリストの体として 用いる聖体 (パン) が入っています。 それはミサの間のキリストの 奇跡的な体です。 このパンは天国と地上の間を つなぐ役割をしています。 このフレスコ画では,いかに 天国と地上が離れているか, そしてどれだけこの結びつきが重要 なのかも感じられるように思います。 絵の下部の人たちは 教皇,司教,枢機卿, そして様々な宗教的聖職者たちです。 教会の神父たちや, 中世の偉大な詩人, ダンテの横顔も見ることができますね。 フレスコ画の下の人たちには 実際にいたような感じがあります。 聖体の奇跡を通じて神の知に 触れることができた 人々の様子を見て取ることができます。 そして両方の端にいる 2 つの人影は, 神の知から離れていくようにも見えます。 しかし,彼らはふりかえっており, 元の場所に戻ろうと 努力しているのかもしれませんね。 ここ, 署名の間 (Stanza della Segnatura)は, かつてはローマ教皇ユリウス II 世の 図書室であって, 人間の知識の全てを 賞賛する場でもあるのです。